きみに触れられない
「いないよ、そんな人」

するとハルは「えー!」と驚きの声を上げた

「なんで」

私が眉間にしわをよせながら答えると、ハルは興奮したように反論した。

「だって、女子高生でしょ?普通、恋のひとつやふたつくらい…」

「私は『普通』の女子高生じゃないので」

ばっさり、ハルの演説を切って捨てる。

「なんだ、つまんないのー」とハルは口を尖らせた。

「うっさいな」と私はそっぽを向いた。


__恋のひとつやふたつ、なんて。

そんなの、初恋すらまだなのに。


私は溜息を吐いた。


「本当に、いないの?」

ハルが聞いた。

「そんな、嫌そうな顔をしないでよ」

余裕ぶって笑う、その顔は好きじゃないと思った。


「本当は好きな人がいるんじゃないの?」


ハルは訳の分からないことを言う。


「もういい加減に…」

「例えば、特別な男の子とかみーちゃんにもいるんじゃないの?」


特別な男の子、と聞いて少し考えた。

特別な男の子。

特別なひと。


「__あいつ、だ」


カナしかいないと思った。


小さいころからずっと一緒にいて、ずっと私を見てくれていて、私の小さな願いも叶ったことを喜んでくれた。

『良かったな、ミサ』

白い歯を見せて笑う、快活で爽やかな笑顔。


私にとって特別といえるのは、彼しかいなかった。


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