きみに触れられない
「あ、おはよう、奏人!」


その声が聞こえた瞬間、ドキンと心臓が跳ねた。

身体はピシリと凍り付くように固まる。

一度落ち着いた汗がまたダラダラと流れていく。


「おはよう」

クラスメイトに挨拶する声はいつもより少し低いように感じた。


「おはよう、塩谷君」

綾芽ちゃんはいつもの明るい笑顔で挨拶する。

「おはよう、川島さん」

カナの声が、すぐ近くで聞こえる。

ふわりとカナの香りがしたと感じたときには、すでにカナは私の横を通過していた。

ドキリ、ドキリと心拍する速度の加速が止まらない。

それが緊張なのか、恐怖なのか、それとも別の何かなのか、それすらももう分からない。

分からないくらいに、頭はパニックを引き起こしそうだった。

平常心、平常心、と言い聞かせる。


「おはよう、米山さん」

「お、おはよう、塩谷くん」


声が、裏返った。

最悪のタイミングだ。

声が裏返ること自体恥ずかしいことに変わりはないけれど、それでも今は絶対裏返りたくなかった。

言い聞かせていたのに、裏目に出た。

もう、恥ずかしくて悔しくて涙が出そうだ。

いたたまれなくなって俯いていると、綾芽ちゃんが「大丈夫?」と言いながらケラケラ笑った。
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