きみに触れられない
「だ、大丈夫じゃないかも」

顔をあげれば「ミサ、顔赤いね」と綾芽ちゃんは可笑しそうに笑った。

「わ、笑わないでよ!」

けれど綾芽ちゃんは「面白いよ。可愛い!ミサ、純粋!」と訳の分からない話を始めた。

余計恥ずかしくなってさらに顔を赤くして、何を言ったらいいのか分からなくなって黙り込む。

そんな時だった。

「そんなに気にすることじゃない」とカナが言ったのだ。

「声が裏返るなんて誰でもすることだから、気にしなくていい」

カナがくれたのは、人をバカにしたような笑顔ではなく、穏やかで優しい微笑みだった。

「でも、珍しいな。米山さんの声が裏返るなんて」

カナは続けて言った。

「米山さん、疲れてるんじゃないか?」

すると綾芽ちゃんが「そういえば、目の下にクマができてるよ」と覗き込んだ。

「え、そうなの?」

咄嗟に目元を抑えてみるけれど、自分では変化が何も分からない。

カナと綾芽ちゃんは2人して頷いていた。

「結構すごいよ。昨日寝なかったの?」

彩芽ちゃんの問いかけの本当の理由はカナがいるから言えない。

「あ、うん」

私は頷いた。

「また勉強か?」

カナがため息混じりにそう言った。

「そうだけど」

私は少しムッとしながら答えた。

確かにあの後勉強していた。

けれど勉強している間にカナやハルのことが次々に思い出されて、勉強が集中できなくなって、寝ようと思っても眠れなかった。
< 75 / 274 >

この作品をシェア

pagetop