きみに触れられない
「ええ、本当に!?」

ざわざわとクラスが揺れる。


カナは、クラスでも学年でも男女問わず人気者だ。

部活でも期待の新エース、学業もそこそこ、おまけに誰に対しても優しくて明るい。

だからもちろん、カナを好きな女の子なんてたくさんいるわけで。

それなのに彼女がいないどころか、好きな人すらいなかったものだから、みんな不思議に思っているのだ。

うちのお母さんやカナのお母さんも、カナの彼女や好きなひとについてよく私に質問してくる。


「まさか奏人に彼女がいたなんて」

「いつから付き合ってるの?」


興奮めいたざわめきはどんどん大きくなる。


__この事態を、避けてきたのに。

カナと仲良くしているところを見られたら、こういう事態になるって分かってたから、だからカナに名字で呼んでもらっていたのに。

みんなから注目されて、好奇の目で見られる、こんな状況が怖くて嫌だから、ずっと私は。


私はひとつ溜め息を吐いて、呼吸を整える。


とりあえず、否定しなきゃ。

私とカナは付き合ってなんかいないよって。

ただの幼馴染みだって、言わなきゃ。


そう思うのに、声帯は震えない。

声が、出ない。

皆が、怖い。

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