きみに触れられない
怖い。


怖くてたまらない。


好奇の目に晒されているこの状況が怖い。


怖がる私は、皆の目にどう写っているのだろう。


おそるおそる視線をあげてみんなを見ようとした。

けれどどの瞳も好奇心いっぱいで、なにか楽しいことを見つけた子どものそれとよく似ていた。

まるで、新しいおもちゃを見つけたようなワクワク顔。


それはとても恐ろしかった。

視界がその顔で埋め尽くされていくような、そんな感覚がした。


私は逃げ出したくてぎゅっと目を瞑って下を向いた。


まるでサーカス団のピエロになった気分だ。

動物園のパンダや水族館のイルカもこんな気持ちなのかもしれない。

人の視線を浴びて、その恐怖や緊張に耐えて、毎日を生きているのかもしれない。


完全にパニックに陥ったらしい思考回路は何も動かない。

解決策を導かないどころか、回避法さえ教えてくれない。


「違う」


カナの凛とした声が響いた。


「違う。付き合ってないから」


その瞬間、頭の中のパニックがすうっと消えていく感覚がした。

ざわめきはどんどん小さくなっていく。


「じゃあなんでお前ら仲良いんだよ?」


興奮した叫び声が飛んできた。

カナはそっちの方を鋭い目で見ると、一瞬だけ視線を私に映して、それからもう一度クラスメイトを見た。


「そりゃ、小学校の時からクラスがずっと一緒だったら、これくらい仲良くて普通だろ」


吐き捨てるように、どうでもいいとでも言いたそうに、カナは言った。

カナにしては珍しい口調だった。
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