きみに触れられない
「米山さん」
その声で視線を上げると女の子が二人、私の席の横にいた。
岩田(いわた)さんと、森谷(もりたに)さん。
今まであまり話したことはない。
「あのね、今日の数学の宿題、見せてほしいんだ」
分からなくて、と岩田さんは笑う。
「ああ、うん。いいよ。ちょっと待ってね」と言いながら、鞄からノートを探す。
宿題を見せてと頼まれることも日常茶飯事だ。
特に朝、1時間目が数学か英語の授業の時は絶対だ。
__誰かの解答を書き写すんじゃなくて、少しくらい自分で解いた方がきっと勉強になって知識も身に付くだろうに。
そんな少し暗い思いを胸にしまいこんで「合ってるか分からないけど」と自虐的に笑いながら手渡すと、岩田さんは首を横に振った。
「学年1位の米山さんが間違うわけないよ!」
岩田さんと森谷さんが嬉しそうに言うその言葉がグサリと胸に突き刺さる。
「そんな、私は…」
すごい人じゃないよ。
そう言おうとしたところで、「あのさ」とカナが振り返った。
「俺も数学の宿題分かんなかったんだ。米山さん、教えてくれる?」
眉を下げて困ったような顔をして笑う。
「い、いい、けど」
戸惑いながら頷く私に、「ありがとう」と微笑んだカナは「みんなで米山さんに教えてもらおう。米山さんが先生の勉強会」と宿題を見せてと言ってきた女の子二人に話しかけている。
二人は困惑したように顔を見合わせたが、「塩谷くんがそういうなら」と了承してくれた。
「ノート取ってくるね」と二人が自分の席に戻っている間、私はこっそりカナを呼んだ。
「なんだよ?」とカナは不思議そうな顔をしている。
「なんだよ、じゃないでしょ」