きみに触れられない
「えっ、お前ら小学校の時からずっとクラスが同じなの?」

「どこの小学校だよ?」

「小学校の時から一緒とか、お前らすげぇな!」


みんなの興味関心の矛先は、完全に移り変わった。


「だろ?俺らめっちゃ仲いいから」

カナは機嫌よく笑う。

クラスの雰囲気もさっきまでとは打って変わって、ほのぼのしたものになった。


ふっと緊張が解けたような、恐怖が消えたような心地になった。

安心してため息がひとつこぼれる。


「ごめん、奏人いるー?」


クラスの扉が開いて、現れたのは3年の先輩だった。

カナの姿を見つけると、笑顔で手招きしている。

おそらく、サッカー部のキャプテンだと思われる。

この前みた試合で、みんなが彼のことをそう呼んでいた。

先輩が現れた瞬間、ざわめきは一気に静かになった。


「あっ、はい!」

カナは大きな声で返事した。

そのまま先輩のもとへ行くのだろうと思っていたけれど、違った。


「ごめん。巻き込んだ」


耳元で、カナはささやいた。

それは、一瞬。

きっと、数秒にも満たない短い時間。


「え?」


驚いて聞き直そうとしたときにはもうカナはそこにいなかった。

私達を囲んでいた人混みを掻き分けて、先輩のもとへと向かっていた。
< 80 / 274 >

この作品をシェア

pagetop