きみに触れられない
小さな4文字の下に、もっと小さな文字を書く。

『お父さんのようになりたいから』

お父さんは、とても忙しそうだ。

家に帰ってこない日だって珍しくないし、むしろ家にいる方が少ないくらい。

ずっと患者さんと向き合って、ひたすら仕事に打ち込んで。

きっとそれは、私が想像しているよりずっと忙しくて、大変で。

きっと、心が痛むことだってあるだろう。

それでもお父さんは生き生きしてる。

楽しそうに仕事を語る。

私はそんなお父さんの姿に憧れた。

いつか私も毎日を楽しいって誰かに語りたい。

そうなりたいと、思った。


けれど、そんな思いで目指して良いのだろうか。

こんな個人的なことを理由に、患者さんと関わる仕事に就いて良いのか。

こんな、こんな理由で。


いつものネガティブが出てきて胸が苦しくなったところで、先生が「そろそろいいかな」と声をかけた。

急いで顔をあげる。

「みんな書けたかな?」

先生はにこにこ笑う。

「発表できる人だけで構わない。だれか将来の夢を発表できる人は挙手して」


その声で何人かが手をあげた。

その中にカナと綾芽ちゃんがいた。


「そうだなあ、じゃあ、川島さん」


綾芽ちゃんは「はい」と返事をして立ち上がった。
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