きみに触れられない
クラス中が笑いに包まれる中、私は1人うつむいていた。

紙に視線を落とす。

『脳外科医』

小さく書かれたそれは、なんて頼りないのだろう。

ふう、と息を吹きかければどこかへ飛んで行ってしまいそうなほど、頼りなく思えた。


綾芽ちゃんは、揺るがない理由を持っていた。

岩田さんは、明確な目標を持っていた。


カナは、堂々と自信を持って夢を語った。


ずっとカナのそばにいた。

そばにいたのに、知らなかった。

カナが私の知らない世界を目指していた。

そのことが、すごく衝撃で。

別にありえないことじゃないのに、びっくりした。


いつも笑っていたカナが。

いつも優しかったカナが。

いつもボールを追いかけていたカナが。


星空に夢を抱いていたなんて、知らなくて。


真っ直ぐに堂々と夢を語るカナを、初めて見たから。


なんだかカナが遠くにいってしまったような、
届かない存在になってしまったような、

そんな心地がする。
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