きみに触れられない
私は少し怒って反論する。

「私が人と話すのが苦手だってカナは知ってるでしょ?それなのに、どうして」

どうしてそんなこと言うの、と問い詰めれば、「ミサ、嫌だっただろ?」と予想外の言葉が返って来た。


「人に宿題を写されるの、嫌いだろ?」


図星をつかれて黙りこんだ私を見て、「やっぱりな」とカナは笑う。


「宿題見せるのが嫌なら、嘘でも何でも適当な理由をつけて断ればいいのに」

「そんなこと言われたって」


カナが言うほど簡単なことではない。

カナが言うとおり、人に宿題を写されるのは嫌だけど、人に嘘をつくなんてもっと嫌だ。

そう伝えれば、「ミサは昔からどうでもいいところまで真面目すぎるんだ」と呆れられた。


「というか、私、人に教えるのも苦手なんだけど」

「ああ、知ってる」

「知ってて、提案したの?」


なんて非道なことをするのだと責めれば、「だってミサは」とカナは真面目な顔をして答えた。


「ミサは、他の人と話をしたかったんだろ?」


どきんと心臓が鳴った。


「黙ってるってことは図星だな」


ニヤニヤと意地悪く笑うカナのこの顔は大嫌いだ。

「うまく説明できなかったらどうするの」と怒ったように聞けば「心配いらねぇよ」とカナが笑う。


「ミサがうまく話せなくなったら、俺がどうにかするから」


適当で不真面目でその場のノリので言ったようにも聞こえる言葉だけど、カナは本当に心からそう思ってくれていて、本当に私を助けてくれるって確信してる。

だって、ほら、カナの目がこんなにも優しくてまっすぐだから、この目を信じられないわけがない。
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