きみに触れられない
「どうしたの。そんな暗い顔をして」
声が聞こえて振り返る。
「ハル……」
「何かあった?」
ハルは私の隣に来て、同じように街を見下ろした。
私はこくりと頷いた。
するとハルは「今日は素直だね」とおどけて笑う。
キッと睨めば「ごめん、ごめん」と平謝り。
やっぱりハルは適当なやつなんだと溜め息を吐いた。
「悩み事?」
「……」
ハルの言葉に俯くだけで、なかなか言い出せない。
無言が続き、ハルは何をしているのかと視線をやれば、ハルはぼうっと空を眺めていた。
その瞳に青を映していた。
透き通る、夏の空を。
それがすごく綺麗だと思った。
「あのね、ハル」
ハルは顔をこちらに向けた。
さっきまで綺麗な空を映していた瞳に、私が映り込む。
それがすごく苦しかった。
「私、きれいじゃないよ」
ハルは目を点にして固まった。
「どういうこと?」
「私はハルの瞳に映してもらいたくないくらい、汚いの」
うじうじ悩んで、こんな小さなことで。
どうせ自分なんか何もできないって思ってる、ネガティブ思考。
そんな私を、私なんかを、その綺麗なまっすぐな瞳に映してほしくないんだ。
汚れてほしくないんだ。
綺麗なままでいてほしいんだ。
ハルには。
するとハルはクスリと笑った。
「みーちゃんは、綺麗だよ」