きみに触れられない
「将来の、こと」

消え入るような頼りない声。

「みーちゃんの将来の夢ってなに?」

「……脳外科医」

するとハルは「へえ、すごいじゃん。偉いねえ」と言った。

「バカにしてるの!?」

「違うよ。本当にすごいなあと思って」

睨みつけた私をハルはまっすぐな目で見ていた。

いつもヘラヘラ笑う笑顔とは違う、まっすぐな真剣な顔だった。


「私、どうしたらいいんだろう」


ふうっと息を吐き出すみたいに、声が溢れた。


「脳外科医になりたいって決めて、そのまま進んでもいいのかな?

ここで今脳外科医になるって決めてしまっていいのかな?

みんなみたいにすごい立派な理由がなくても、脳外科医になるんだって決めてしまっていいのかな?」


お父さんのようになりたい。

お父さんのように、毎日生き生きと、楽しいと誰かに語れるように。


そんな想いだけで、目指してもいい職業なのか。


俯いていると、ハルはしばらくしてから口を開いた。


「みーちゃんの未来は、みーちゃんのものだから。

だから、みーちゃんが決めなきゃいけない。

みーちゃんがそれでいいんだって決めた未来なら、進めばいい。

きっとみんな、受け入れてくれる」


穏やかで柔らかくて、適当にも聞こえる言葉。

だけど何より真っ直ぐで、厳しくて、優しい。


ハルらしい言葉だと思った。

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