きみに触れられない
「私、怖いよ」

言葉は震えた。


「怖い?」

ハルは不思議そうな顔をした。


「今決めてしまったら、進路希望調査に書いてしまったら、未来が決定してしまうような気がして、怖いんだ」


泣きそうになった。


「今決めてしまったら、このまま進んで行ってしまったら、未来が狭まっていく気がするの」


広い場所にいたのに、一歩進むごとに狭まっていくような。

目標に向かって進めば進むほど、それしか見えなくなっていくような。


世界が狭まる、そんな感覚だ。


「それに、もし脳外科医になるって決めて、そのまま進んでいったら、いつか後悔するかもしれない。

私には向いてない職業かもしれない。

いつか後悔して、こんな道に進むんじゃなかったって、脳外科医なんて目指さなきゃ良かったって思う日が来たらどうしようって、考えるだけで怖い」


どこまでも果てしなく続く真っ暗な道をろうそくの明かりを頼りにひとりで歩いているような感覚だ。

道の両端さえ分からない。

どこがゴールで、どこがスタートなのかも分からない。

目指す未来は、遠くで白く揺れている。


あまりに遠い。

あまりに儚い。


歩いても、歩いても、近づけない。

むしろさらに遠くなる感覚さえする。


途方に暮れそうだ。

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