訳あり少女

『お前が俺に勝てるわけないだろう』




腹が立った

「…なぜだ。何故そう思う」




この時俺は知らなかったんだ


こいつの名を
こいつの強さを
そしてこいつの儚さを


『……俺は強いからな』




「…っ」


鳥肌が立った。自慢しているのかと思いきやそうじゃねぇ



憎たらしい程の美しいその顔には笑顔なんて無く


感情さえ無かった





一見輝いて見えるその金銀の瞳は闇に満ち溢れ何も写していなかった



「…お前、何者だ」





『俺は龍牙だ。おいクソガキ』



「クソガキじゃねぇ。嶺二だ」



何故か名前で呼んで欲しいと思った





『…嶺二。お前には守りたいものがあるか』



「守りたい…もの…?」



あいつらが脳裏をよぎった





『なんだ。いんじゃねぇか
そいつらのこともっと大事にして全力で守れ』

『人は守りたいものがいる方が強くなれる』






「…はっ。もう手遅れだ
一年だぞ。一年オレは自分の族を放置してたんだ。ましてや最近は倉庫にすら顔出ししてねぇ
そんな俺に尊敬の目を向けるやつなんざどこにもいねぇよ」




『甘ったれんな。自分のケツは自分で拭け
お前は何のために総長になった
尊敬の目を向けられるためじゃねぇ
大切なやつらを守ってくためになったんだろうが。簡単に手放すんじゃねぇ』





その通りだとだと思った


自分の中に空いた穴を埋めるように喧嘩してたんだ



寂しかった。かと言って誰に甘えればいいかわからなかった




あいつらに弱い部分を見せたくないという理由で、一方的に離れ自分を追い込んでいたんだ




もう一度慕われるかわからない
もう一度尊敬の目を向けられるかわからない




でも、慕われなければ慕われるようになればいい
軽蔑されているのなら誤解を解けばいい





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