続★俺だけの家政婦さん
「栞里」

名前を呼ばれ顔を上げると野末くんが真っ直ぐ私を見ていた。

「どうしたの?」

「今までありがとうな」

少しかしこまった野末君の声に私は首を振る。

「ありがとうって…私は野末君からお金を頂いて働いている家政婦よ。ただ業務をこなしただけで
お礼を言われるような事はしてないよ」

急に改まって言われると落ち着かず早口になってしまった。

野末くんは首を横に振る。

「俺はこの2ヶ月間凄く楽しかったし、栞里が鋳てくれたお陰で仕事も随分
はかどったし、〆切りよりもかなり早く書き上げることが出来た。本当に感謝してる」

いつものようなため口ではなく私に対して敬意を払うように真面目な言い方と私を見る真っ直ぐな目に

私は素直に受け取る。

「私こそ初めての住込みで一時はどうなるかと思ったけど、良い勉強になりました。
今後の仕事に活かせるかなって・・・だから私こそありがとうございました」

持っていたフォークを置き、姿勢を正し頭を下げた。

「え?ちょっと待って・・・今後の仕事?」

頭上から聞こえる声に顔を上げるとなぜか野末くんは複雑な表情を見せる。

「なに?私何か変な事いった?」

特に変な事を言った覚えがない。

すると、野末くんの顔が複雑そうな顔から不安そうな顔と変化するのがわかった。
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