理想は、朝起きたら隣に。
何故か肌を見せるのが恥ずかしくて、セーターと足元まですっぽり隠すロングスカートを履く。
私がもたついている間に、慶斗はとっくにジャケットに腕を通しているところだった。
その様子さえ、映画のワンシーンを切り取ったような、見惚れそうな背中だった。
「俺を見ているのが窓に映ってよく見えるよ」
フッと鼻で笑われて、映画の中から締め出された。
現実はそんなに甘くないし、映画の様にはいかない。
「気付いてても、普通言う?」
「俺は言う。嬉しいからね」
振り向いた彼は、腕時計で時間を気にしつつ本棚へ視線を送る。
てっきり私に何か話しかけるとか思ったのに。
「今から引っ越し業者が来る。昼から荷物が届くんだ」
それで時計を確認していたのか。
眠っているときも外さなかったし。
でもなんだか、今の状況をちゃんと見てくれない気がしてムッとしてしまう。
はっきり言わない私も悪いと思うけど、私の返事から逃げるように優しい言葉をかけてくる慶ともずるいと思う。
「返事も聞かずに帰っちゃうんだ」