理想は、朝起きたら隣に。
「そこ?」
まだ何のことか分からない私に、彼の指が伸びる。
後ずさると、なんとも言えない複雑な表情を浮かべて私の方を見た。
言葉が少ない分、表情から読み取りたいのに。
六年という月日は、彼の表情を上手に隠してしまっている。
「俺も男だ。君の服を脱がす時に何も思わないはずはない。君にいつ気付いてもらえるか楽しみだったが、その反応は残念だった」
何の言葉が分からない私に、鏡を見ておいでと促された。
訝しげではあったけど、私はテーブルに置いたままだった化粧ポーチから小さな鏡を取りだした。
そして首に鏡を当ててみて呆然とした。
「此処まで運んだ報酬ってことで」
悪びれもせずに彼がそう言うけど、鏡に映る私の首には、はっきりと赤い花弁が浮かんでいる。
それがキスマークだと理解するのは、何十秒も経ってからだった。