理想は、朝起きたら隣に。
彼は私の本棚から二冊、推理小説を持ち出した。
「これ貸して」
「どうぞ」
連絡先を交換していると、電話を持っている指を見つめられた。
自分でも結構気に入っている、昨日の服に合わせたネイルを、ずっと見つめられていた。
「なんで借りるか聞いて」
液晶画面を見ながら、そんな事を不意に言ってくる。そんな構ってちゃんな行動をする人じゃなかったから警戒してしまう。
「どうして?」
どうして借りるのかと、どうしてそんな質問するのかと二つの意味を込めて尋ねると、何故か彼は満足した笑みを浮かべる。
「返すっていう会う口実になるから」
「――ふうん」
「それだけ?」
照れた私に、にやにやと意地悪そうに聞いてくるから彼は卑怯だと思う。
するとタイミング良く電話が鳴った。
すぐに電話を取りだすと、どうやら引っ越し業者からの確認の電話の様だった。
電話を切ってすぐ、私の方を振り返った。
「予定より早く来るらしい。帰る」