理想は、朝起きたら隣に。

カフェへ向かう途中、慶斗から着信が入った。

「はい?」

『今、どこに居るんだ』

ちょっとだけ苛立った声だと気付いたけど、気付いていないふりをした。

「さあ。でもカフェに向かってるよ」

『林田と待ち合わせしてたのか?』

途端に不機嫌になる声。
案外、彼はストレートに感情を出す。
いつも愛情ばかり貰っていたので、こんなあからさまな嫉妬は初めてだった。

「偶然だよ。でも色々と慶斗のことを教えてもらった。6年前のこととか、会えなかった時期のこととか」

『あいつ、余計なことを』

「あと1カ月早かったら、って林田さんは言ってくれたよ」

カフェまでもう少し。
歩道橋を渡って向こうの道路に移動すれば、5分もしない。

「でも6年経ってもこんなに気持ちが溢れちゃうんだから、5年11カ月目で林田さんに会えても――どうすることもできなかったと思う。私」


電話越しだと素直に言えた。

ヤキモチを妬いてくれたのが分かったからなのか、私は声だけで気持ちがあふれ出てくるのを止められなかった。

< 48 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop