理想は、朝起きたら隣に。
カフェへ向かう途中、慶斗から着信が入った。
「はい?」
『今、どこに居るんだ』
ちょっとだけ苛立った声だと気付いたけど、気付いていないふりをした。
「さあ。でもカフェに向かってるよ」
『林田と待ち合わせしてたのか?』
途端に不機嫌になる声。
案外、彼はストレートに感情を出す。
いつも愛情ばかり貰っていたので、こんなあからさまな嫉妬は初めてだった。
「偶然だよ。でも色々と慶斗のことを教えてもらった。6年前のこととか、会えなかった時期のこととか」
『あいつ、余計なことを』
「あと1カ月早かったら、って林田さんは言ってくれたよ」
カフェまでもう少し。
歩道橋を渡って向こうの道路に移動すれば、5分もしない。
「でも6年経ってもこんなに気持ちが溢れちゃうんだから、5年11カ月目で林田さんに会えても――どうすることもできなかったと思う。私」
電話越しだと素直に言えた。
ヤキモチを妬いてくれたのが分かったからなのか、私は声だけで気持ちがあふれ出てくるのを止められなかった。