理想は、朝起きたら隣に。
(いた)
カフェの一番手前で背中を窓に向けて、ひたすら本をめくっている彼がいる。
背を向けているので気付かれていない。
ちょっとだけ横から見ると、先ほどの犯人を教えた推理小説を不服そうに眉をしかめて読んでいた。
六年前とは違うのは細い黒のフレームの眼鏡をしているということ。
節目がちなその表情、長い指先がページをめくる仕草。
全てにおいて、甘酸っぱい気持ちが浮かび上がってくる。
昔から、私は彼の一挙一動に心を奪われていたんだ。
コンコンと窓を叩くと、すぐに彼は振り向いた。
むすっとしたような、照れたようなその素直な表情に、私の顔は自然とほころんだ。
「最初から犯人が分かっている推理小説を読むのは初めてだ」
「あはは。どう?」
「――犯人と分かっているから一層厳しく監視して、証拠のシーンを探してしまう」
悔しそうに言いながらも本を閉じて、テーブルの隅に置いた。
使っている栞が、私がプレゼントした葉をモチーフにしたシルバー製の栞でちょっとだけ驚いた。
優衣の電話で駆けつけてしまった時に誕生日プレゼントとして贈ったものだった。
「そんな感じなのかもしれない。私も色んな部分で、慶斗の気持ちを探ってしまってる」