理想は、朝起きたら隣に。
四、理想は朝、隣に。
言葉なんて必要ないと強く抱きしめあった夜が過ぎて、珈琲の香りが鼻を掠める朝が来た。
なんで珈琲?
そう思ってごろりと寝返りを打つと、隣に慶斗が眠っていた。
「――っ」
じわりと目に涙が滲んだのは、悲しいからじゃない。
本当に隣に彼が居るからだ。
離れていた時間が、案外私の中で強がっていただけで寂しい空白の時間だったらしい。
理想は、そう。
こんな風に朝、同じベッドで、隣で彼が眠ってくれているということだ。
思わず胸に抱きついたら、むにゃむにゃと眠たそうな顔で抱き返してくれた。
「おはよう、美春」
「うん。おはよう」
ポンポンと頭を撫でられて、猫の様に擦り寄る。
「珈琲の良い匂いがする」
昨日、引っ越したばかりの慶斗の家に、雪崩込むように二人で上がった。
よく見れば、壁に数箱の段ボールと、真新しい四人掛けのテーブル、そしてベットという閑散とした部屋だった。