理想は、朝起きたら隣に。
「ん。美春は俺のバイト先の珈琲が好きだったろ。向こうで練習してたんだ。昨日も寝た後にちょっとだけ練習した」
置き上がり、ジーンズを履くと段ボールから数種類の珈琲豆を取り出した。
どうやら珈琲を入れてくれるらしい。
「服、借りて良い?」
「テレビの横の段ボール」
短いレスポンスの中、居心地が良いのは二人を包む珈琲の香りが甘い媚薬のように胸を高鳴らせるからかもしれない。
付き合っていた時、いつも慶斗のTシャツを借りて朝はぼーっとしてたのを思い出した。
案の定、段ボールの一番上にあった青いシャツは、着たらワンピースのようになった。
それを着て椅子に座ると、甘みが強い珈琲の香りがする。
昨日、私が飲んだ珈琲と同じだ。
好きだと覚えていてくれたんだね。
コトリとテーブルに置かれた珈琲を、一緒に飲みながら暫く無言が続いたが、一口飲んだ彼はカップを置き、私を見た。
そのまま彼は私に簡潔に言った。
「結婚しようか」
両手でマグカップを持っていた私の手は止まる。
「や――、違うか。結婚してください、か」
「ぷぷぷぷ」
頭を掻く彼の仕草が可愛くて私は思わず笑ってしまった。
「はい。よろしくお願いします」
そう言うと、熱々の珈琲を全て飲み干した。