理想は、朝起きたら隣に。
暫く歩いてから携帯を取り出すと、両親からだった。二人は今、仕事が終わって電車に乗ったらしい。やはり待ち合わせ時間通りだ。
なのに、待ち合わせ場所のカフェの前に着くと、店の前のベンチでスーツ姿の彼が眼鏡をかけて推理小説を読んでいた。
ブックカバーや使っている栞のセンスの良さに、気取らないブランドスーツは、座っているだけなのに女性がちらちらと彼を振り返っている。
「早いね」
「美春。あれ、優衣ちゃんたちの飲み会は?」
私は缶コーヒーを二個取り出すと、彼に渡した。
「うん。優衣の顔が一目見れたから帰って来ちゃった」
「ふうん」
「ってか、二回目なのに緊張してる?」
本を閉じた彼が、ネクタイに手を伸ばしながら溜息を吐く。
「お前も俺の親の前でガチガチだったろうが」
「そうだけど、ぷぷぷ」
「うるさいぞ」
慶斗はムスっとしたまま私の手を掴むと、そのまま自分の手と一緒にポケットに入れた。
多分、親に手を繋いでいるところを見られたくなくて、でも繋ぎたくて隠しているのだと思う。
彼らしい不器用さが微笑ましい。
「大好き」
珈琲を飲みながらぽとりと落とすように言う。
それに彼も小さく俺も、と答えた。
完