⑦オオカミさんと。溺れる愛の行く先に【番外編も完結】
かに思われた瞬間。

小さな手が、ぎゅうっと上着の裾を掴んだ。


「とーさん、ドコいくの?」

「フユキ…」

背中越しに見下ろせば、
さっきまで子供部屋にいた筈のフユキが、ひどく難しい顔で俺を見ている。


「とーさんも、いっちゃうの?
おねえさんみたいに」

丸い小さな顔がクシャッと歪んだ。

「おいていくの?
ぼくも……かあさんも……」



「……そうじゃないんだよ」

俺はフユキに向き直ると、しゃがみこんで目線を合わせた。

「とうさんのせいでかあさんが……ちょうしわるくなっちゃったんだ。

だから、かあさんがなおるまで
……フユキ?」

大きな眼が涙で揺れた。

こいつが生理現象以外で泣くところなんて、ついぞ見たことがない。

かける言葉に躊躇う俺に、
トーコが何か言いたげに近寄ろうとし、でもそこで足踏みしている。


「いやだっていっても?
…かあさんも…フユキも……」

震える声で、目を擦る。

「ゴメンよフユキ。でも……俺は…俺が…」

拙い言葉で、小さな身体で精一杯に主張するコイツを前に、言うべき言葉がみつからない。


「モモちゃんも……」

泣き続けるフユキに、燈子が堪らず声を上げた。

「フユちゃん違うのっ!
とうさんじゃない、かあさんが悪……

え…?モモチャン?」
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