⑦オオカミさんと。溺れる愛の行く先に【番外編も完結】
「…悪い」

 そっと手を握り直すと、彼女は嬉しそうに笑う。

 会話もないまま、黙って歩き続ける。

 
 …さっきから何やってんだ、俺は。

 女連れで歩くなんて当たり前に、むしろ“どうだ!”とひけらかすくらいにやってきた事だ。
 それが奥さんだと、何故恥ずかしい?

 さっきウチの女子社員の一団とすれ違った。彼女達は俺に挨拶した後、チラチラ振り返ってヒソヒソと何か話しているように感じた。

 そうなんだ、俺は…
 外向きの仮面が剥がれてしまうのが怖いんだ。
 燈子を前にした俺は、顔も性格もあからさまに崩壊するからな。
 
しかし。

 また離されるコトを怖れたのか、心持ち、燈子は握る手をぎゅっと強めた。

 俺の迷いは彼女を不安にさせている。

 さしずめ今の態度は、彼女に“モテなくなるからだ”とか“連れとして恥ずかしいからだ”とか思わせたに違いない。

 この期に及んで、一体なにを取り繕おうとしている。俺が守るべきは何だった。
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