⑦オオカミさんと。溺れる愛の行く先に【番外編も完結】
あれ?
首を傾げた私に、彼は蕩けるような笑みを向けた。

「時間だ。君…デンキを頼むよ?」

ポヤっと惚けてしまっていた私の肩をトンと軽く叩くと、

“レッツトーコ!”

ナゾの掛け声とともに、彼は駆け出して行ってしまった。

はたと我に返った私。

な、何よ今の……ちょっとドッキリしちゃったじゃない。
 
まあいいわ。
彼好みのドジッ娘演技もバッチリ、バディもシッカリと覚え込ませたし、初日にしてはまずまずの出来。


** 

次の日からの2週間、私は彼の視界の至るところに出没した。
彼の行動パターンは2ヶ月間に及ぶ調査によって把握済みだ。

朝の出勤時間に待ち構えて『おはようございます』、会議後の狭い廊下で身体をぶつけ、エントランスロビーの自販機で『あ、同じの押して、手が触れちゃった』、退社時間も待ち伏せete……

今日はついでに、赤野燈子にも揺さぶりをかけてやった。

昼休み、ヨメサービスに勤しんでいる不様な彼にアプローチ。

『あらぁ!』なんて近寄って、2人の間に割って入り、これ見よがしなボディタッチ。
キュートにキメて媚びまくる。

同期じゃ私は有名人、いかにボケた赤野燈子も“おや?”と思ったに違いない。

…これらの努力も明日には実る。

明日私は

大神秋人に

一気に攻勢をかける。
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