⑦オオカミさんと。溺れる愛の行く先に【番外編も完結】
そう、それが会社を変わった理由の一つだったはずだ。

「それが何か?」

「その父親が、ワザワザ仕事場に訪ねてきて仄めかしてくるんだ。
期待してるから、ゆくゆくは役員の椅子を…みたいにさ」

「そりゃあ…」

ウラヤマシイ限りだと思うが。

「俺はずっと技術屋でやってきて。
できればそっち方面を極めたいと思ってたんだ。
そもそも、経営とか勢力争いとか…そういう政治的なのはニガテなんだよなぁ」

豪快に空けたジョッキに、自らピッチャーで継ぐと、俺の分にも継ぎ足した。

「…柄じゃないんだよ、俺は」

熊野は憂うつそうに視線を落とした。

真面目なコイツの性格ならば、迷うのは当然かも知れない。

しかし…俺にはそうは思えない。 

「そうでもないさ。
オマエはむしろ、小細工なしで堂々とやれるし、俺と違って他の輩との衝突も少ないだろう。
俺の知ってる限りでは、あそこの専務は娘のワガママだけで動くヒトじゃない。
打診があるのは、オマエがそれだけ信頼されてるってことだ」

はっとして熊野は顔を上げる。

……キマッた。
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