それを愛と呼ぶのなら
それも束の間。お母さんの表情はすぐに笑顔に変わる。


「ちょっと急な用事が出来たのよ。明日の昼には帰るから」


ぞっとした。

こんなにも平然と、何でもないことのように嘘をつくことに。

今までもこうやって、お母さんは私を欺いてきたんだ。


「明日の朝ご飯は自分で何かしてね」


お気に入りのパンプスを履きながらそう言ったお母さんは、迷うことなく不倫相手の元へと出掛けて行った。


「……はは」


うちの家族って、結局こんなもの。

昼間パートに行って、夜は家事を黙々とこなすお母さんと、朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくるお父さん。

昔から両親の間には距離があったし、私自身、親から愛情を注いでもらった記憶があまりない。

きっとふたりとも忙しいんだろう。仕方ない。

小さい頃、ずっとそうやって自分に言い聞かせていたのに。


全身の力が抜けて、壁に寄り掛かってその場に座り込む。


「ここにきて、ものすごい裏切りだなぁ……」
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