それを愛と呼ぶのなら
自分の中に、こんな感情があるなんて知らなかったよ。


他人のことでこんなに苦しくなって、切なくなって。その意味を、私は理解することができずにいたけれど。

ようやく、なんとなくわかった気がする。

真尋に抱くこの気持ちは、多分──


「……お前には関係ねーだろ」


突き放すような冷たい声が、静かな室内に響く。

強引に顔をこちらに向けても尚、視線は絡んでくれない。


“お前には関係ない”……?

なんでそんなこと言うの。馬鹿じゃないの。


感情のストッパーが壊れる音が、確かにした。


「……っ!?」

「……」


噛みつくように重ねた唇。

薄く目を開いてやると、睫毛が触れそうな位置で、漆黒の目が見開かれていた。


馬鹿よ。

私も真尋も。馬鹿な女と男。
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