それを愛と呼ぶのなら
私が頷いたのを見た彼……真尋は、小さく息を吐いた。


「取り敢えず、風呂入ってこい」


言葉の意味が、家を飛び出したときに雨に濡れてしまったからだということはすぐに悟った。……でも、


「それを言うなら、真尋が先でしょ。びしょ濡れじゃない」


家に上がる前に、シャツを脱いで絞っていたことは知っている。

外の世界で降る雨が易しいものじゃないことも、嫌でも聞こえてくる雨音でわかっていた。


「……俺は後でいい」


ふいっと顔を逸らして、ぶっきらぼうに言い放つ真尋の横顔は、学校内外の女子が騒ぐだけのことはあって、とても綺麗だと思った。

物憂げに伏せられた長い睫毛が影を落として、少しだけ切なそうにも見える。

そっか。真尋もまた……私と同じ立場なんだもんね。


「じゃあ……先にシャワーだけ浴びてくる。タオル持ってくるから、座ってて」

「……あぁ」


つい1時間程前にお母さんが入っていたお風呂の栓を抜いてから、棚に積んであったバスタオルを一枚だけ手に取ってリビングへと戻る。

真尋はダイニングチェアに腰を下ろしていた。


「はい」

「……サンキュ」
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