それを愛と呼ぶのなら
ふわり、と真尋の匂いが私を包み込んで……昨晩のことを思い出してしまった。

熱が一気に顔まわりに集中したのがわかる。


「……朝から何考えてんだ、私」


ボサボサの髪を、自らの手で更に掻き乱す。

ガキか!と心の中で自分自身にツッコミを入れながら、今ので完全に目が覚めたので、のそりとベッドを抜け出した。


今日で、私達の生活は終わりを迎える。

すなわち、このマンションを出て行くということで。

キャリーケースいっぱいに持ってきた荷物をまとめようと、フローリングに腰を下ろした時だった。


──ガチャ……。

背後で、扉が開く音がした。

トクン、と胸が鳴ったのを感じつつ、それを悟られないように振り向く。


「……え?」


けど、その瞬間に私を襲ったのは、ドキドキとは程遠い緊張だった。
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