それを愛と呼ぶのなら
シャツが置きっぱなしだったこともあり、てっきり上半身は何も身につけていないのだろうと思っていたけれど。

真尋は既に着替えていて、何なら髪のセットまでし終えている。


「……びっくりした。起こしてくれればよかったのに」

「……」


真尋からの返事はない。

彼は無表情のまま、広げられたキャリーケースの上に、無造作に歯ブラシを置いた。

そんな真尋の様子を、私はその場に座ったまま見つめる。


「……ねぇ。この荷物はどうするの?どこかに捨てる?」

「……」

「どうやって死ぬか、全然決めてなかったよね。そういうのって、考えてる?」


着々と荷造りを進める真尋の背中に、言葉を投げかける。

だけどやっぱり返事はなくて、私の胸には不安が広がった。


「ねぇ、真尋……!」


痺れを切らして声を荒げた瞬間、黒のキャリーケースを静かに閉めた真尋。

そして、ゆっくりと振り返る。
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