それを愛と呼ぶのなら
「だから、頼む」


泣きじゃくる私の頭に、ぽんっと優しく手が乗せられる。

そして、真尋はまた笑うんだ。


「葵だけは、何があっても幸せになれ」


やめてよ。なんでそんな風に言うの。


「私だけなんて無理よ……!腹違いの兄妹だとか、そんなのどうだっていい!私はあんたと一緒にいたい……っ」


泣いて、縋って。

真尋がこんな姿を望んでいないことも知ってる。

でも、無理だよ……。

頭ではわかってても、心がついていかないの。


「……わかってくれよ。俺じゃ、お前を幸せにしてやれない」

「そんなこと……っ」

「日常に戻るんだ、葵。苦しくても、現実を生きてもがき続けろ」


私の背中を押す言葉ばっかりで、自分のことは何も言わない。


「真尋は……?真尋は、これからどうするつもりなの……?」


真尋の手が、ゆっくりと頭から離れていく。

それを止める術を、私は知らない。


「東京には戻らねぇ。二度と、お前の前に現れるつもりもない」

「え……?」

「まぁ、死んだりはしねぇよ。お前を生かすのに、そんなズル許されるはずないもんな」


真尋の瞳がギラリと光る。

もうきっと、この人を止めることはできないのだと、心のどこかで悟ってしまった自分が嫌だ。


「生きるためなら、どんな汚いこともしてやるよ。それが俺の……兄としての、最初で最後の仕事だ」
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