それを愛と呼ぶのなら
今日“も”。たった一文字が、私達に最悪の状況を連想させる。

裏切りが、お母さん達だけのものとは限らない。


「馬鹿よね……私。今まで生きてきて、何にも気付かなかった。……気付けなかった」


真実への扉は、いつも傍にあったかもしれないのに。

騙されていた時間の分だけ、現実が重く自分にのしかかる。人の裏側を知ることの恐怖が、大きくなる。


それがこの世の真理ってやつなのなら、なんて残酷なんだろう。


「……泣くなよ」


低く呟いた真尋の腕が、私の肩を引き寄せる。

真尋の広い胸に全てを預けて、ただ重力に従って流れていく止まらない涙をどうにか止めようと、必死だった。


「真尋は……平気なの……?」

「……どうかな。うちの親はとっくに離婚してっから……お前とは、少し違う」


ふと、数時間前に初めて声を聞いた時のことを思い出した。

“尤も、あんたは家庭持ちらしいけど”。あの言葉は、そういう意味だったんだ……。


「でも……多分だけど、親父の不倫が原因で離婚したんだ。だから、親父が何食わぬ顔で俺と顔を合わしてたんだって思ったら……心底、この世界が憎くなる」
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