それを愛と呼ぶのなら
噛み付く私を余所に、真尋は涼しい顔をして手を動かす。

ここまで私のことを子ども扱いするの、真尋ぐらいだわ……。




「ご馳走様」


徐に箸を置いた真尋が、目を伏せつつ手を合わせた。その仕草ひとつでさえ絵になるんだから、この男はずるい。


「食器、流しに置いといてくれる?」

「いや……俺が洗う」


予想の斜め上をいく返答に、思わず呆気にとられてしまう。


「お前は先に風呂入れ」

「え、でも……」

「いいから。疲れてんだろ」


吐き捨てるようにそう言って、私に背を向けた真尋。


細く見えるのに筋肉質な広い背中。短髪の黒い髪。

物言いはぶっきらぼうだけど、本当は優しい人なんだって……今日1日だけでも、十分わかった。


「……ありがと」

「ん」


ふわふわ、不思議な感覚。

近くも遠くもない。そんな初めての距離感に、戸惑ってしまう自分がいる。


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