それを愛と呼ぶのなら
真尋が起きたら……全部、消してしまおう。

アドレス帳も写真もLINEも、クラスメートに勧められて始めたSNSも。


そんなもの、なくたって平気。

目の前で眠るこの男だけで、私には十分過ぎるもの。




どれくらいそうしていただろう。

ゆっくりと開かれた瞼は、悔しいくらいに綺麗な二重だ。


「……ん」

「あ、起きた?」

「……あお、い」


低く掠れた声が、一番に私の名を紡ぐ。


「おはよ」

「……はよ。……何時?」

「8時半。起きる?」

「……んー」


返事とは裏腹に、真尋はごそごそと布団に潜り込む。それと同時に、握られていた手が離された。

真尋は意外にも、朝は弱いタイプらしい。


「もう」


ふう、と息を吐いて布団から出る。

クーラーの効いた部屋は7月を思わせない程涼しく、とても快適だった。

真尋が付けてくれたんだなぁ……。


「真尋も、朝はご飯派だっけ」


のそのそと歩いてキッチンへ向かい炊飯器を開けると、丁度ふたり分くらいのご飯が残っていた。

ご飯と、味噌汁と、たまご焼きと……。

冷蔵庫を覗き込み、献立を考える。
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