それを愛と呼ぶのなら
柵の前に歩み寄り、大阪の街を見下ろす。

車が小さい。人なんてもはや目視することすら難しいくらい、地上から離れた場所。


「空中庭園って言うだけはあるな」

「……私も今、同じこと考えてた」


目を伏せたまま、くすくすと笑い合う。

ずっとここでこうしていられる──そう思った時だった。


「うわ、雨や」


どこからか、そんな声が聞こえてきた。

ぱっと顔を上げて空を仰ぐと、いつの間にか分厚い雲が頭上を覆っている。

ぽつ、ぽつ、と雨粒が重力に従って落ちてきた。

次第にそれは、激しさを増していく。


「……あーあ。天気予報、晴れって言ってたのに」

「……」

「せっかくの……七夕なのに」


イベントごととか、今まで別に興味なかった。

だけど真尋が考えてくれたんだから、話は別。

それなのに、神様は織姫と彦星には束の間の幸せを与えても、私達には与えてくれない。


「私達には雨がお似合いってことかしらね……」


大粒の雨が髪や服に浸透してくる。

屋外にいた人は既に屋内に入った後らしく、辺りには誰もいなかった。


「……俺らも帰るぞ、葵」

「……うん」


真尋の大きな掌の温もりを左手に感じながら、ついさっきまでは綺麗だったはずの景色に背を向けた。



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