それを愛と呼ぶのなら
昨日の帰り道に買ったビニール傘をさして薄暗い街へと繰り出す。

傘がある分、いつもより少しだけ真尋を遠くに感じた。




マンションの最寄りである中津駅を利用するのにも、もう慣れてきた。

切符売り場の上にある料金表を左から順に眺めて動物園前駅までの値段を調べると、280円。ここから7駅の距離。

鞄の中から長財布を取り出して小銭を確認するも、どうやらさっき自動販売機でお茶を買った時に小銭を全て使い切ってしまったらしかった。

福沢諭吉が描かれている、私よりも以前の持ち主によって四つ折りにされた一万円札を、渋々券売機に入れる。


「真尋のも一緒に買っちゃうわね」


真尋の返事も聞かず、タッチパネルの左側に表示された“2枚”という画面をタップして、切符を購入した。

ピーという高い音と共に出てきたのは千円札の束と、100円玉が4枚と10円玉が6枚。それらを財布に直しつつ──機械も嫌がらせをしてくるなんて時代も変わったわね、と内心毒付く。


「はい、切符」

「サンキュ」


我ながら……息はピッタリだと思うのよね、私達。

だって今みたいに、お互い余所を向いてたってちゃんと切符は真尋の手元に渡ってる。
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