それを愛と呼ぶのなら
信じられないことを耳にしたにも関わらず意外と頭は冷静で、今かけた電話の履歴を削除してから、湯船に浸かっているであろうお母さんに気付かれないように自室に戻った。




真っ暗な部屋に戻ると、ベッドの枕元にあったケータイが震えていた。電気をつけてから慌てて電話に出る。


「もっ……もしもし!」

『……もしもし。俺だけど』

「……うん」


ベッドにごろんと寝転び、相手に見えてないことはわかっていながらも頷く。

見ず知らずの人だけど、今はその声が何よりも私を落ち着かせてくれた。


『さっきは……悪かった。てっきり、お前の母親かと思って』

「だから……一回目の電話も切ったんですね」

『……』

「……もしもし?」

『……ごめん』


それが電話を切ったことに対しての謝罪じゃないことは、すぐにわかった。


「……謝らなくていいですよ」


謝らなくていい。この人は何も悪くない。


「私のお母さん、美弥子と、あなたのお父さん……嶺二さん、でしたっけ。ふたりは……不倫関係にある……ってこと……ですよね……?」


それでも、ほんの少しの希望をもって尋ねてみる。だけど。


『……』


無言が肯定を物語っていた。
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