それを愛と呼ぶのなら
後ろを警戒していたら正面から攻め込まれた、まさにそんな気分。

特技を教えるって……何それ?


「そんなのでいいの?」

「そんなのとか言うなよ。俺が必死に考えたのに」


必死に考えてそれか……って言いたくなるけど、本当にそうなんだろうな。

本当に考えてなくて、予想外のことを言われて頑張って考えて出した答えなんだろうな。

そう思うと、何だか可愛い。


「特技、ってほどでもないかもしれないけど……レジの早打ち、かな」

「スーパーでバイトしてるって言ってたもんな」

「ええ。社員より早いわよ、私」

「それは見てみたいかも」


クッと喉を鳴らした真尋は、猫みたいに目を細めて口角を上げる。


「真尋の特技は?」

「……聞いてもつまんねえだろ」

「それは聞いてから判断するわ」


だからホラ、と言うと、彼は呆れたように息を吐いて。少し渋る素振りを見せた後、口を開いた。


「……ベンチプレス」

「ベンチプレスって……筋トレの……?」

「そ。うちにあるから、暇があればやってた」


昔は陸上部だったって言ってたっけ。
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