それを愛と呼ぶのなら
待っててねと言い残し、逃げるようにその場を離れる。

売店へと向かう足は自然と速くなった。


「何……言ってるんだろ」


右に流している前髪を掻き上げては、また自分が嫌になる。

私達はお互いの不倫相手の子どもで……本来なら出会うべきではなくて。何かを望んじゃいけなかったのに。

でも私……わかってるの。

さっきの言葉が自分の本心だってこと、わかってしまってるの。

真尋に出会って、真尋の優しさに触れて。

今までのどの男よりも心が落ち着くんだって……わかるから。


「なんなの……この気持ち」


知りたい。だけど知るのが怖い。

知ってしまったら何かが壊れてしまう気がして、踏み出せない。

こんな気持ちになったのは、多分、生まれて初めてだ。


「お姉さん、ひとり?」


とんとん、と肩を叩かれて振り向くと、見るからに馬鹿そうな男がふたり、背後に立っていた。

……うわ、最悪。よりによって、なんでこのタイミング。


「ひとりじゃないです」

「友達と来てるん?俺等も混ぜてーや」

「……向こうにツレいるんで、退いてもらっていいですか」

「ツレって男?彼氏?」


引き下がる気配のない男達に、苛立ちが募る。


「彼氏じゃ……ないけど」


ここで彼氏、って、さらっと嘘を吐くことの出来るような器用な人間なら、もっと生きやすい人生になっていたんだろう。

でも私は言えなかった。

彼氏じゃない。友達でもない。

真尋と私との間に、明確な関係性はないから。
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