それを愛と呼ぶのなら
目の前の見知らぬ女がぎゅっと唇を噛んだことに、男達は気付いていないんだろう。

当の私ですら、無意識だった。


「ならいいやん。行こうや」


強引に腕を掴まれた途端、嫌悪感が私の体中を支配した。


やめて。触らないで。

同じ男でも、こんなに違うの?

手のひらから伝わるはずの優しさも、私の中に灯る安心感も、この男達からは感じられない。


私が頭を頭を撫でて欲しいのは、手を握って欲しいのは、触れて欲しいのは──混沌としたこの世界に、たったひとりだけなのに。


「離して……っ!」


必死に振り解こうとするけど、力で私が勝てるはずもなく。


「俺等、別に怖ないでー?」

「そんな暴れたら危ないやろー?」


にやにやと笑う男達を、精一杯睨み付ける。

負けてたまるか、こんな奴等に。


「お姉さん、美人やから何しても綺麗やなぁ」

「ソソるわー」


反発する気持ちとは裏腹に、ずるずると男達の歩く方へと誘導されてしまう。

何とかして振り解かないと……!


「いい加減に……っ!」


言い終わる前に、男のうちのひとりが視界から姿を消した。

続いて、私の手を掴んでいた方も。
< 89 / 165 >

この作品をシェア

pagetop