それを愛と呼ぶのなら
ケータイを軽く枕に投げてベッドに体を預けると、ギシ、と音を立ててスプリングが沈んだ。

窓を打つ雨音が余計に不安を掻き立てる。


「ツヅキ……マヒロ……」


今更ながら、その名前をどこかで耳にしたこのあるような気がして必死に記憶を辿るけど、思い浮かぶ人物はいない。

きっと誰かの名前に似てるんだ。

私がお母さんの不倫相手の息子さんのことを知ってるわけないもん。


「……お腹空いた」


腹の虫が鳴り、そう言えばお腹が空いていたことを思い出す。

……流石に食べないと。

重い体を起こして再び階段を降りると、丁度お母さんが脱衣所から出てきたところだった。それも、しっかりと化粧をした姿で。


「あ……葵……」

「……お母さん」

「……体調はもう大丈夫なの?」


白々しい。本当に娘を気遣うなら、こんなときに不倫相手に会いになんか行かないでしょ。

自然と、お母さんを見つめる目が鋭くなる。


「まぁ……ね。……それよりお母さん、こんな時間にどこ行くの?そんなにばっちりメイクして」


棘のある私の言葉に、お母さんの目が泳いだ。
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