それを愛と呼ぶのなら
……もう。

言葉にならない感情が胸の奥をくすぐる。


「器と箸、頼んだぞ」

「……うん」


ねぇ、真尋。聞きたいことがあるの。

あんたはどうして、ここまで私に優しくしてくれるの?

だって私は、自分の両親を離婚させた原因かもしれない女の娘で。憎い相手のはずじゃない。

なのに、なんで私みたいな女の馬鹿な提案に乗ってくれたの?

なんであんたが私を見つめる目はそんなに穏やかなの……?




「お風呂洗ってくるね」


鍋を平らげ、ひと息ついた後。席を立った私を見上げて、真尋は小さく頷く。


「んじゃ、洗い物やっとく」

「え、いいよ。私やるから」

「どうせ暇だし」


出汁だけになったお鍋を持って、再びキッチンに戻っていく。

結婚したらいい旦那になりそうだな、この男。

まぁ……私達にその時が訪れる日は来ないんだけど。


仮にその日が来たとして、真尋の隣にいるのは私じゃない。

そんな当たり前のことに、胸が痛んだ。




「……なんだ、待ってたのか」

「……うん」


先に寝ててくれてよかったのに、と言いつつ私の隣に腰を下ろしたのは、濡れた髪の上にバスタオルをかけた真尋。

完全に寝ぼけ眼の私は、ぼんやりと真尋を見る。


「……何だよ」
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