紳士的な狼の求愛
有馬くんの会社のブースを出て、部長と別れ、休憩スペースでひとりコーヒーを飲みながら、こんな感情はいつ以来だろうか、と考える。
前の彼と別れて以来。
数年ぶりだ。
好きなのに、素直になれず、
『今度は、玲子さんが頼れて、素直になれる男の人と恋愛してください』
なんて言われて振られた、年下の男の子との恋愛。
『ほんとに、好きだったんだよ』
最後に言うと、彼は切なそうに『ありがとう』と笑った。
どれだけ彼を不安にさせ、傷つけてきたのかを思って、後悔して、泣いた。
それ以来、好きな人を傷つけるのが怖くて、恋愛から遠ざかった。
彼は今、元気で、幸せに暮らしているだろうか。
「お疲れ様」
思い出に浸っていると、声をかけられ、現実世界に引き戻された。
……有馬くん。
紙コップ片手に、同じテーブルに座ってきた。
「疲れた? 顔がフツーの女の子の顔になってる」
慌てて仕事モードに切り替えて、
「30歳に女の子はないと思う」
なんて切り返してみたけど、有馬くんは飄々と、
「他の奴にはあんま見せたくないな」
なんて言うものだから、もう、どんな顔していいか、わからない。