紳士的な狼の求愛
「ブース、いいの?」
「交代して小休憩」
「お疲れ様」
有馬くんは、紙コップのコーヒーを飲みながら、
「青山さんのメールの返信、面白くてツボ」
と言って笑った。
「どこが面白いの」
「青山さんらしく、媚びない感じが」
……ほめられてるんだか、けなされてるんだか。
「でも、今日、会って話をした方が断然嬉しいということが判明」
……あなたのその素直さは驚嘆ものです。
「まだ、フリー?」
「……そうですが」
「予約していい?」
「何をですか?」
「青山さんが、担当部門外れたら、個人的に会う予約」
そんなの、いつになるか、わからないのに……。
……迷った末、答えた。
「……話をするだけなら」
「あー、さすがだなぁ、青山さん。俺が話だけで終わらせるつもりはないって分かってるんだ?」
……この男、食えない。
その時、彼の携帯が鳴った。
「はい、有馬。……了解。すぐ行く」
ビジネスモードに切り替えて対応する姿に、心が持って行かれる。
……あぁ、これは、本格的にまずい。
個人的に会ったりなんかしたら、たぶん、……やられる。
私はコーヒーを飲み干し、有馬くんの空のカップと重ねた。
有馬くんは電話を切り、
「ごめんね。行かなきゃならない」
と言ってくれた。
「これ片づけとく。頑張って」
「サンキュ。うわ、いいな、こういうの。うん。頑張れそう。じゃ、帰り、気をつけて」
有馬くんは嬉しそうに1人で納得し、颯爽と去っていく。
……私は大きなため息をついて、立ち上がった。