紳士的な狼の求愛
帰宅後。
スマホと長い間、にらめっこしている。
報告だけ。
好意を寄せてくれた彼に対して、せめてもの誠意を示すだけ。
会いたいって言われたら、それはその時考えよう。
でも。
会いたいって言われたら、きっと断れない。
そして、会ったらきっと好きになってしまう。
それは、彼に、お互いの会社に、迷惑をかけることになりはしないだろうか。
迷って。
迷って。
電話をかけるには非常識な時間になってしまい。
それに少しほっとしてる自分もいる。
今日じゃなくていいか。
また明日以降改めて考えよう。
……ヘタレだな、自分。
翌日。
『えーうそまじっすか! 』
原田君の大声に、思わず耳元から受話器を遠ざけた。
『青山バイヤー、担当じゃなくなっちゃうんすか! のぇー、ショックっす!』
「はいはい、ありがとう。で、メーカーさん集めて、後任の挨拶を兼ねた商談日程組んでちょうだい」
『後任はどなたですか?』
「現在菓子担当の、松尾渚です」
20代半ばの女の子。
流行に敏感な彼女なら、きっと面白い売り場を作れると思う。
「く・れ・ぐ・れ・も、よろしくね?」
『ハイっ!』