紳士的な狼の求愛
商談終了後。
「有馬さん、ちょっと待っていてください。別件で橘バイヤーに資料渡して来るんで」
原田君が慌ただしく帰り支度をし、商談ブースを後にした。
残された有馬さんが、高そうな鞄に書類などをしまい、立ち上がる。
空気が動くと、ふわっとウッディな香りがした。
嫌味じゃない、香水のつけ方。
いいペン使ってたし。
いい腕時計してるし。
ブランドものの名刺入れだし。
すべてが、嫌味なほどにスタイリッシュ。
これがツンと澄ましてたら、いけ好かない奴だ。
ところが、彼は明るく柔らかな雰囲気で、嫌な感じを与えない。
モテるだろうな。
「青山玲子」
そんな彼から、いきなりフルネームで呼び捨てにされ、唖然とした。
彼は私をじっと見つめている。
その顔は明らかに取引先としてのものではない。
……何なのよ。
取引先でナンパ?
モテる男はこれだから……。
「俺のこと、覚えてない?」
……え?
有馬悠斗。
アリマ ユウト。
私は記憶の中を探る。
ーーーあ。
「お久しぶり。青山さん。俺はすぐにわかったけど」
「……有馬くん?」
思い出した。
高校の同級生だ。
同じクラスになったこと、ある。
何年生の時かは咄嗟に思い出せないけど。
「すっかり忘れてました、って顔だな」
だって、ほとんど話したことない。