紳士的な狼の求愛
どのくらい時間が経っただろう。
ふっ、と、有馬くんの身体が離れた。
「青山さんの自制心の強さは尊敬に値するね」
呆れたように笑う声。
しまった、と血の気がひいた。
とんでもないことをしてしまった。
彼に恥をかかせた。
部屋に入れておいて、応じないとか、私、何様だ。
私のつまらないポリシーで、好きな人のプライドを傷つけるとか、バカすぎる。
もう元には戻れない。
先にも進めない。
失ったものの大きさに、
寒気がした。
同時に、
失って、はっきりと自覚した。
ーーー私は、彼が好きなんだということを。
「何で泣きそうな顔してるの」
優しい声が降ってきた。
何で私なんかに優しくできるの。
「そんな顔すると、俺、自惚れるよ?」
「……自惚れていいよ」
もう、何を言っても、今さら、だけど。
「あーあ。使うつもりなかったのに、最後の切り札きるしかないじゃんか」
……え?
有馬くんは、私の顔を覗き込み、
いたずらっぽく笑って、言った。
「熊田部長の許可は得てる」
……はい?
うちの部長の、許可?