紳士的な狼の求愛
お取引先様と個人的にお会いすることはできません

それから1カ月たった12月。
部長と一緒に、有馬くんの会社の東京本社に行くことになった。

原田君と原田君の上司の、うちの部長に対する猛アピールが功を奏し、取り組みを強化する方向となったのだ。

はじめに、マーケティング部の有馬くんがうちの部長に対し、市場動向や施策提案のプレゼンを行う。

有馬くんは、やっぱりプレゼンがうまい。
部長も飽きずにきき、次々と質問を浴びせる。
他のベンダー・メーカーの営業やマーケ、開発担当者が撃沈される様を何度も見てきているのでハラハラしたけど、有馬くんは正面から受け止めたり、やんわりかわしたり、ユーモアを交えて切り返したり。

先方の営業部長が口を出さないことから、社内でも信頼されていることがわかる。

有馬くんは出番を終えると退出する。
部屋を出る間際、私を見て、微笑んだ。

……ビジネスギリギリの笑顔。

また、トクン、を押し殺す羽目になる。

後は営業と、具体的な数値や取り組みの話となった。



私は商談が終われば、早々に帰る。
この後は食事会という名の接待。
接待されるのは部長の仕事。



ひとりで立派なビルの外に出ると、「青山さん」と声をかけられた。

……有馬くん。

コートを着て、外から帰ってきたところ?

「今、帰りですか?」
私が言うと。

「うん。待ってた」
と言われた。

……帰り、の意味が違った。

「ごはんでも行かない?」

またやってきた、トクン、を慌てて押し殺す。


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